デウス・エクス・マキナ

 今日の天気があまりにも軽やかな春だったので、結婚するなら結婚記念日は3月がいいなと思った。江國香織の小説『きらきらひかる』をオーディオブックで聴きながら歩いていたので、唐突にそんなことを思ったのかも。「結婚」というワードが出てきたので。なんとなく恋人が欲しい気分である。私がまだ、体と心を他人に預けることができるかどうか試してみたい。最近、全然他人に心を預けてないので。

 

 昔、信頼しているおともだちに、「あなたの書く小説は、早春の夜明けみたいだね」と言われて、それから私は春が大好き。長く冷たい冬の終わりに、植物たちが目醒めるときの苛烈がエネルギーを感じる。気怠い憂鬱さと、遠くに見える微かな希望を、昔はずっと書いていた。二十歳のころ。五年前の話。あの頃の私はずっと、冬の乾燥した冷たい風に吹かれているような気持ちで、寄る辺なくて、乾燥した心から常に血が滲んでいた。ここは自分の居場所じゃないと思いつつ、どこに行けばいいのか分からなかった。レールに乗って、順調に来たはずなのに、本能ではこんなところに来るはずじゃなかったと思っていた。親の庇護下にあり、レールから外れる力もなく、ただ自分の体を痛めつけていたときだった。まともにご飯が食べられなくて、肉体は弱っていくばかりだった。レールに乗っていくには、体を少し弱らせないといけなかった。元がパワフルすぎるので、この精神に無限の体力があったらポーンってレール外れてどこまでもとんでいっちゃうんだもん。ボールみたいに。だから自分の心身を傷つける幼い少年の話ばかりを書いていた。私にとっては必要なセラピーの過程だった。

 

 そういえばあの頃、江國先生好きそうだねって何度か言われたんだよな。あの頃は大人向けすぎてよく分からんかったんだけど、今『きらきらひかる』を読んでて良すぎて震えている。これに夫の恋人の大学生の「紺」って名前の男が出てくるんだけど、音声で聞くと漢字がわからないので「コン」という音だけ残る。そしたら空耳して「テン」と聞こえて、隣国の某人気アイドル、威○のtenさんの顔で脳内再生されるようになってしまった。でもこれが本当にベストヒットなので、『きらきらひかる』を読んだことがあるひとはぜひ脳内映画でキャスティングしてみてほしい。最高なので……。

 

 私は生命として強そうな人物が好きなので、私より背の高い体格のいい男にときめくものの、結婚するとなると自分よりも圧倒的に力のある生物をパートナーに選ぶのは怖い。というアンビバレンツな感情がある。例えば夫がさ、もし泥酔したり、変な薬飲まされて錯乱したり、歳とってボケたりしたときに、自分より圧倒的に力がある人物だと怖くない?でも自分より圧倒的に力がある男の庇護下に入って守られたいという女の気持ちもわかる。庇護下といえばさ、ドラマ『エルピス』において、不安定な立場に置かれた女子アナ浅川が、社会的生物的強者である斉藤という男に抱かれ、安心していたのめっちゃ生々しかったよね。不安定な女の子ほど、強者に愛されたくなるんじゃないかな。

 強者に愛されたい、その気持ちはなんとなくわかる。自分が真っ当な社会のレールを歩めないと自覚を始めた二十歳の頃、圧倒的強者の男に愛されて結婚して、強制的にメインストリームに繋ぎ止めておいて欲しかった。理想的な男と結婚したら、文章を書くのも、小説家を志すのもやめることができるだろうと思っていた。まあそうなならんかったんやけど。当たり前か。あの時期恋愛で痛い目みておいてよかったですよ。所詮、結婚は人間関係の延長でしかない。すべての悩みを解決する魔法アイテムじゃないってことがわかったので。

 

 そんなわけで、体格差のあるカップル苦手になっちゃったんだよな。現実のカップルは当人たちが幸せならそれでいいんだけど。(でも小柄な友達が巨漢の男と結婚したら「この人酒癖悪かったりしないよね??」ってめっちゃ聞くとおもう)でも自分より大きな生物って本能でびびる。自分より小さい人に悪態つかれるのと、自分より大きい人に悪態つかれるのだったら、大きい人の方が怖いもん。

 

 そういやツイッターで「モラハラしてくる人のモラハラ発言を減らすには、会話を減らすのが一番いい」という情報を見て、とにかく丁寧な説明や合槌をカットして冷静なAIみたいな対応をしてたら、騒いでいたおじいさんが「スンッ……」ってなって、最後「ありがとうございました……」って静かに帰っていった。どういう心境の変化だったのか全くわからんが、30秒に一回舌打ちと溜息と愚痴をかましてきて怠かったのでよかった。どういう心の動きか全く分からん教えてくれ。

 

 はてなブログをはじめてもうすぐ一ヶ月。なんやかんやいいねしてくれる人がいて超うれしかったんだけど、いいねしてもらえないと寂しく感じるようになってしまいました。いいね貰えないと今日の話つまらんかった!?ごめんね!?とか思っちゃってたけど、いいねするって面倒臭いよね。面白いと思ってくれてても、面白いって思ってくれてる人はどこかにいるでしょう!読んでくれただけで嬉しいわ。と思ったので、あんまり気にせずやっていこう。

 

 画家が「次々受賞して、実力がついたんだな!と思ってたら、その後数年間箸にも棒にもひっかからなかった。受賞するかしないかは個人レベルの思考では分からん。人生には私の知らないところで神の設計図があるから、深く考えず気楽にやることにした」と言っていて、まったくそうだな……と思った。この日記も、みんながどんな話を面白いと思うかよく分からんので、適当に書いていきます。